この記事は『エロい本棚アドベントカレンダー2022』の20日目です。

祖父の家にはエロい本棚があった。

広い寝室の一角を占める大きなもので、その中には中央公論社の『世界の名著』が全巻納められていた。全集が置かれている本棚あるあるで、読まれている形跡はなかった。私は従兄弟と一緒に本棚の横にあるテレビでファミコンをやっていたので、交代したときなど、子供の時分に本棚を眺めていることもあった。そこに並んでいる文字は著者名だということはわかるものの、「ベーコン」って美味しそうだなぐらいの感想しか持てなかった。

そして、結局手に取ることはなかった。難しそうで、自分向けではないと思ったし、エロさを感じられていなかったからだ。それから何年経っても、私が全集を手に取ることはなかった。

それから8年後、祖父が亡くなった

当時私は中学3年生で、家族とともに祖父の死を悲しんだ。死後の処理をされて横たわる祖父の遺体を直視することができず、寝室に逃げ込んだ。そこには変わらず本棚があった。良くも悪くも誰も手に取らなかったからだろう。そのときの自分は本棚に注意を払うこともなく、気が済んだらまた祖父のそばに戻ったような気がする。

葬儀は滞りなく終わった。

それから5年後、祖母の家に行った

当時私は大学生で、たしか当時の下宿先から自転車で、400km離れた祖母の家まで遊びに行ったんだったと思う。祖母は例の本棚の話をした。どうやら祖母はあの全集を手放したいと考えているらしく、どうせ売ってしまうので必要なら私にあげたいということだった。

しかし全集は60冊以上からなる大掛かりなもので、当時の私ではとうてい部屋の中に納めることはできず、当時気になった2冊だけをもらって帰ることにした。彼らは私にもらわれ、自宅の本棚に納まった。

そして現在

様々な複雑事が起き、もともと祖父の家だった家の管理は他人の手に渡り、私も行くことはなくなった。おそらくはあの本棚に並んでいた全集も、今は売られてしまったあとだろう。そしておそらくそのときに、なぜか2冊だけ不足していることに気が付いて、どこにいったのかと首をかしげたことだろう。しばらく家の中を探し回ったかもしれない。その2冊は今も私の家にあるので、いくら探しても無駄であるというのに。

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